右が代表取締役CEOの林和成氏、左が取締役で弁護士の大橋良二氏

 ペーパーレスがうたわれているが、まだまだ脱・紙文化が進まない領域もある。その一つが法律分野。電子契約、契約書類のレビューにおけるテクノロジーの導入も進んでいるが、業務としての法律業界のDXを進めようという流れも起きている。法律分野に特化した業務管理ツール「レアラ」を開発・運営する株式会社レアラの林和成氏、大橋良二氏に、その開発の狙いと今後について聞いた。

法律事務所のDXとは

 業務管理ツールは、企業のDXを支える大きな柱となるシステム。しかし、業務プロセスの切り分けやフローのシステム化の難しさが大きな壁になってくる。それは、これらが業界によっても異なるし、均一なものではないからだ。当然、それがDXの難しさにつながっているわけだが、一方で、業種ごとに細分化された特化型サービスも登場している。「レアラ」もその一つ。弁護士・法律事務所の業務向けに開発されたクラウド案件管理サービスだ。

 レアラの提供機能は「情報の一元化」「業務プロセスの最適化」「経営基盤の強化」。業務管理ツールとしておなじみのキーワードだが、弁護士の業務フローに徹底的に合わせることで、時間単価2万〜5万円とされる弁護士の業務の効率化、また組織としての業務品質向上、さらには経営を改善させることが目標となる。

 開発のきっかけは、法律事務所のデジタル化を構想していた大橋良二弁護士と、セールスフォース・ドットコムで新規事業開発に携わっていた林和成氏の出会いにさかのぼる。当時、新潟の事務所(こちらが本店になる)と東京に新たに出す事務所間のコミュニケーション、ナレッジの共有などの課題に直面していた大橋氏。それをクラウドサービスで解消できないかと考えたのだ。実際、導入してみると、やはりコミュニケーションの課題や情報の一元化、データ分析という面で大きな効果が上がった。

 ただし、当初は自分たちが使うものだった、このツール。それをサービスとして展開できないかと思った理由は、大橋氏がそのメリットを実感したこともあるが、ヨーロッパの事例を目の当たりにしたことが大きかった。

大橋 偶然、ヨーロッパのある法律事務所を視察する機会がありました。ヨーロッパの中でも一二に働きやすいという有名な事務所で、そこでは自社開発のデジタルツールを弁護士の業務の中でとてもうまく活用していました。当時の日本の法律事務所はというと紙文化が根強く、電子的なものというといまだにFAXが幅を利かせている、というような状況でしたが、向こうはITのツールを使って効率的に仕事をしている。それを目の当たりにして、クライアントや弁護士自身のために、日本の弁護士も専用のデジタルツールをしっかり使って仕事をしていくべきだと感じました。ただ、各事務所が自前でツールを開発するのは難しい。そうであれば、弁護士業務に必要な機能を持つデジタルツールをSaaSとして提供して各事務所に使ってもらえば、業界全体として弁護士業務をより良いものにすることにつながるのではないか、と思ったのです。

 一般的に法律事務所は個人事業主が多い。弁護士が2、3人、それに事務のスタッフがいるという形が多く、そうした事務所がシステムを開発し投資できるかというと厳しい。おそらく、たいていの事務所が躊躇するのではないか。というのは、大橋氏の事務所でシステム開発をした際には、Salesforceをベースにしたものの、開発費用とライセンス料だけで1000万円を超える初期投資が必要になったからだ。

 一方、セールスフォース・ドットコムの新規事業開発という立場で、医療や福祉、法律といった社会性の高いセクターを見ている中、事業を通して社会に貢献していきたい」という想いを強くしていったのが、林氏だ。

 “法”の分野は医療と同じように目に見えない社会インフラであり非常に社会的な価値が高い業界なのですが、一方でまだまだデジタルシフトが進んでいない部分も多いと思います。そのギャップを埋めることは社会にとって必要不可欠であるため、何とかできないかと。大橋との出会いもあって、法律業界に特化したSaaSを展開していこうと決めました。

 法律業務は大きく、企業法務と一般民事の2つに分けられる。
例えば、一般民事なら、電話で問い合わせがきたら、法律事務所では相談内容をヒアリングし、紙の相談票に書き込んでいくのが一般的だ。だが、ヒアリングすべき内容は案件の種類によって異なり、かつ細かな事項におよぶので、聞き漏れが生じる可能性がある。

 それをレアラでは、案件の種類ごとにフォームを作り、テンプレート的に質問を用意しておくことで、経験が浅い弁護士でも電話でヒアリングした内容を記入していくことで必要事項の確認漏れを防ぐ仕組みを構築した。また、受任となれば裁判であったり、先方との調整であったりが必要になるが、OutlookやGoogleのカレンダーやメールアプリと連携することで、問い合わせから終結まで一元管理できるようにしている。
 これに加え、運用をしていく中で事務所内に情報が蓄積していくので、過去の先輩弁護士の類似案件の情報を参考に自分なりに対応したり、ということも可能になるのが、レアラの強みだ。

問い合わせから終結まで一元管理できる
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例えば、交通事故の場合には損害の自動計算ができたり、離婚では養育費の自動計算もできるようになっている
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 一方の企業法務では顧問契約を結んでいるクライアントからの法律相談、契約書のレビューに対応する(顧問契約を結んでいないが、対応するというケースもある)。

 基本的に、契約書のレビューの場合、弁護士1人に対して事務/パラリーガルがつく形になり、その連携を含めたタイムチャージを管理する必要がある。この点でも、レアラではカレンダー機能と組み合わせてドラッグ&ドロップでタイムチャージを登録できる。登録したタイムチャージの明細を請求書や明細書に出力したり、自身の売り上げの進捗を可視化できるので、個人として業務改善につなげることも可能だ。

 こうした機能は、もともとSalesforceにあるものをベースに弁護士事務所特有の分析ができるようにして開発されている。セキュリティもSalesforceの堅牢な仕組みをそのまま用い、ヨーロッパのGDPRにも対応済みだ。

 ファーストリリース時の開発には約半年をかけたレアラ。プロダクトミーティングには常に大橋弁護士も同席し、弁護士のナレッジを共有。現在、毎月バージョンアップを行っている。

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法律業界のDXはなぜ必要なのか

 案件の増加であったり、売り上げアップだったり、事務所によって設定するゴールは異なるが、レアラを導入している法律事務所では弁護士の業務時間が削減でき、最終的に1人当たりの案件数が2倍以上になった例がある。また、レアラを活用することで、多拠点、他分野での展開をする法律事務所で、出稿している広告の投資対効果の分析が容易になった例もある。

 弁護士業界の動きも、この20年で大きく変わってきている。1つは市場規模の拡大。日本弁護士連合会(日弁連)に登録されている弁護士数は2020年で4万2164人。司法試験の制度が改定された2000年(1万7126人)から比べると倍以上の伸びになる※1
※1弁護士白書

 それに伴い、弁護士報酬の市場も拡大し、2000年の約6500億円に対し、2018年には8800億円の市場規模になっている。

 林氏は、案件管理の効率化をベースにこの市場のDXを進めていきたいと語る。

 マーケットを拡大していく選択肢としては、大きく分けて海外展開、企業法務部門への展開、弁護士業界への深掘りの3つがあると考えています。海外展開については、もちろん国によって法律が違う部分もありますが、やはり専門的な業界だけあって、業務の進め方やデジタル化のニーズは同じように高いので、これから法律セクターが成長/成熟していくアジア等は特に可能性があると考えています。

 次に、企業法務部門への展開については、既にオプションとして提供し始めている機能ですが、弁護士事務所が相対する顧問先の企業の法務部門側のコミュニケーションもサポートしています。法務担当が変わった際のナレッジの共有も顧問弁護士に依頼するとタイムチャージが発生するので、自分たちで過去案件の経過を組織のナレッジとして確認できるようにしています。そうした顧問先が使うアカウントまで広げていくと、先ほどのマーケット規模とは桁が変わってきます。また、業務管理以外のサービスの提供も可能性としてはありますし、隣接士業についても実際に弁護士事務所内の司法書士の方がタイムチャージの管理にLEALAをご活用いただいているケースもあります。

 もう一つ、関連することとして挙げると案件の専門化がある。弁護士全体の数が増えているということはそれだけ競争が激しくなっているということ。すると個々の弁護士もそれぞれ売り込み方を考えていくわけで、その結果、いろいろな分野の専門家が生まれていく。例えば、交通事故だったら、以前は弁護士なら誰でもできるという時代もあったが、今は後遺症や医学の知識がある人でないと難しいというように、専門性が高くなってきている。

 こうした細分化するニーズに応えるためにも、データ活用によるナレッジの共有は有効だ。なお、レアラは、現在は個々の事務所ごとのデータは閉じたものとして事務所ごとに蓄積させていく形だが、それらを統合して、より大きなデータとして活用する可能性もあり得る。大量のデータを蓄積・分析することで、例えば、ある事件分野の裁判に対し、「この手の案件であれば通常はこれくらいで進められているので、少し対応が遅いですよ」というような業務改善に向けたアラートを出すこともできる。こうした法律業務における一般的なデータを、比較対象として将来、提供することも考えていると言う。

大橋 弁護士の業務は基本的に情報を集めて資産として扱うという側面が強いので、ナレッジマネージメントという視点は特に重要だと考えています。その意味で、日常業務をしながらデジタルツールに情報がどんどん蓄積されていく点は長期的に見てとても大きな価値があると思います。よくいわれる話に、弁護士の知識やノウハウはその弁護士の頭の中だけに入っている、というものがあります。その弁護士は知っているけれども、同じ事務所にいても他の弁護士には知識やノウハウが必ずしも共有されているとは限らない。どういう事件を取り扱っているのかということ自体、あまり共有されていなかったりします。それが、一つ一つの情報がシステムに蓄積されるようになると、例えば、システムで検索することにより組織として過去の経験や情報を活用することができるようになる。そうすると、一つ一つの案件の精度があがったり、業務をより効率・迅速に対応できるようになり、それは弁護士はもちろんクライアントにとっても大きなメリットとなります。

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社会インフラにイノベーションを

 法律事務所のDXが進んで、無駄なく、品質のいいサービスが提供できるようになると、その先の社会はどうなるのだろう。

 林氏は、社会にとってより高い価値を提供したいという想いからレアラの起業に至り、会社のミッションは「社会インフラにイノベーションを起こす」こととしている。

 あらゆる企業が法の下で事業活動を行い、あらゆる個人が法の下で社会生活を送っています。そういった意味で、法は社会にとって極めて重要なインフラです。この領域がDXによって効率化を図ったり、提供するサービスの品質をさらに向上させていくことは、社会をより良くしていく上で非常に価値があると思っています。

 例えば、弁護士の時間単価が3万だとする。その当人がかけた時間はやはり依頼者に費用として返ってしまう。だからこそ、本質的な業務に時間を割けるよう効率化を図ることは大きな価値につながる。それによって、人や企業が法律関係のトラブルを予防できたり、もし起きても早期に解決できたり、そうした形で法律業界のDXは間接的に社会に大きな価値を提供できると考えているのだ。

大橋 法律というのはルールであって、ルール違反があったことに対して誰かが動かないと救済されないんですよね。罪を犯した人がいたとしても放っておいたら法律の意味がなくて、警察が動いて捜査して犯人が見つかって、最終的には裁判で罰せられるからルールの意味がある。だまされてお金を失ったときでも、それを救済する仕組みがないと、法に反する行為はあったが何も救済されていないという話になってしまう。そうした救済の仕組みをどう作っていくかが、課題かなと思っています。

 そのための手段としてはいろいろあると思います。弁護士費用は高いので保険のような仕組みでそれをカバーする。あるいは、本当に小さな紛争であればシステムを使って救済できるような仕組みを作っていく。これまでは少ない金額だから泣き寝入りでもしょうがないとなっていたところを、そうではなくて、ちゃんとお金が返ってくるような仕組みを作っていく。いろいろな形・方法が考えられると思うので、会社としてさまざまな解決方法を模索していくのが一つの方向性と思います。

 そして、社会インフラが整っていくことで、だまされた、ひどい目にあったということが多少なりとも少しずつ減らせるのではないか。そうしたことを実現していきたいという考えています。

 大橋氏は日本はまだ法律がインフラとして機能しているほうだと指摘する。裁判制度による救済すら十分に機能していない国はアジアを見てもまだまだ多い。そうした国や地域では、日本であれば救済されるような話であっても、だまされたら泣き寝入り、違法行為で被害を受けても救われない、という結果になってしまうことも少なくない。では日本と何が違うかというと、それは社会インフラの成熟度が違うから。そうした面でも、「法」という社会インフラをさらに強化して、アジアをはじめとした世界の法インフラのアップグレードも支援していけたらと大橋氏は語る。

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